歌舞伎「刀剣乱舞」

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歌舞伎「刀剣乱舞」

新作歌舞伎「刀剣乱舞 月刀剣縁桐(つきのつるぎえにしのきりのは)」を観に行った。
「新橋演舞場」にて。

刀を擬人化したゲーム「刀剣乱舞ONLINE」(DMMゲームズとニトロプラスが共同製作)を原案とした新作歌舞伎。
剣豪将軍と言われた室町幕府13代将軍足利義輝の時代の「永禄の変」を題材とする。

観劇予定の友人が都合が悪くなったので急遽代役で観に行くことに。

事前に見ていたキャラビジュアルはうーん、なるほど歌舞伎だ、という感じ。洋装の刀剣男士も服のイメージを生かしつつ和装になっているし、鎧部分はほぼ省略している。
とはいえ、観てきたゲームプレイヤー(審神者)の人たちの感想はなかなか良いようなので、ほお、と思っていた。

刀剣乱舞は現代のゲームだけど主に過去を舞台にした話なので、「時代もの」としての歌舞伎によく考えたら似合うし馴染みやすい気がする。そもそも歌舞伎って当世の事件や出来事を取り入れてきた芸能という面もあるし。ゲームを全然知らなかった年配の役者さんたちも「刀剣に宿る付喪神」という設定をおもしろいと思ってくれたようだ。

歌舞伎を観るのって学校の課外授業的なもので行って以来じゃないかな?
独特な台詞の言い方とかもあるけど、大体聞き取れるし、難しい言葉や状況説明(やゲーム関係用語)はイヤホンガイドで劇中でも解説してくれる。

歌舞伎のお作法はよく知らないんだけど、見得を切ってポーズをとるところや花道を下がるところでは拍手していいらしい。
私が観に行った回では屋号が叫ぶ方はいなかったかな。

いろいろな演出があったけど、歌舞伎が本来そういうものなのか、最近のスーパー歌舞伎以来のものなのか、この舞台特有のものなのかはわからない歌舞伎ど素人。
でも、歌舞伎独特の顔の作り方や台詞の読み上げ方、見得を切ったり足を踏み鳴らしたりの所作や音楽の使われ方などを含め、歌舞伎として、「刀剣乱舞」作品として、おもしろかったですよ!
ゲームの設定や台詞もところどころ使われているのも嬉しい。

ナウシカとかの「新作歌舞伎」はソフト化されているようなので、観られなかった人も多いだろうし、もう一度じっくり観たいし、というのもあるから、是非円盤出して欲しい。
再演や続編製作はあるかな?
グッズや筋書(公演プログラム)は通販もするらしい。

以下、内容に触れるので畳む。
記憶違い等があったらすみません。
観てから時間がかかったうえに、まとまりがなくて超長いです!

千秋楽の日の昼公演。
開場少し前に着いたら入口前は結構な列ができていた。
もともとの歌舞伎ファンっぽいご年配の方も。いやその人たちも審神者かもしれんが。

中で引換のイヤホンガイドも混雑を見越して劇場外でも引換をしていた。
上演中は専門の方による用語解説や状況説明があって(「通常の歌舞伎公演同様」ってあったからいつもやっているのね)、開演前と幕間ではゲームの三日月声優の鳥海浩輔さんのナビゲートや主演・演出の尾上松也さんのメッセージもあって盛りだくさん。
トイレの中とか少し受信状況良くない場所があったり開演前はばたばたしてたので聞き逃したところもあったけど、解説やお話おもしろかったです。
イヤホンガイドは要返却だけど、ストラップつきケースと芝居コラムなどが載っている小冊子はもらえた。

昼食はせっかくだから公演特製のお弁当「特製幕の内弁当 極(きわめ)」にしようと思って(キャラクターをイメージした食材もある)、前日の夜に予約しようとしたら予約は三日前くらいに終了になってた。開演前にかなり並んだけど(売り場1階だったけど3階まで並んでた)無事にゲット。幕間にはもう売り切れていたので最初に買っといて良かった。開演前の15分くらいで食った。デザート?の三色団子だけ幕間に。映画館と違って上演中は飲食禁止らしい。お弁当、都内の一部では家に配達してもらって食べることもできるのね(ただしある程度の数まとめてだが)。
6振りの刀剣をイメージした「刀剣あいす 誉(ほまれ)」は開場前は品切れてたけど、幕間には復活してた。またすぐ売り切れたみたいだったけど。

なくなったら嫌なのでグッズも開演前に買いに行ったが、手拭やうちわはもう売り切れてたかな。少なくとも幕間で気づいたときにはもうなかった。
筋書とクリアファイルを自分と友人用に二つずつ、あと自分用にゴーフレット缶を買った。

劇場には舞台で使われている刀剣の展示もあった(今回の公演のではないが)。

客席に入ると、舞台に「刀剣乱舞 由来」と題して、ゲームの設定、刀剣男士・審神者・時間遡行軍などについて「~なり」とか格好良い文で説明が書いてある幕が下がっていた。

最初は三条宗近が刀を打つところから始まる。
最後の6振りが刀の姿で安置されているという場面と対になるようにしたんだろうな。

剣豪将軍足利義輝のことは太宰府でやった室町将軍展(ゲーム実装刀「大般若長光」の新規イラストを見るために行った)で初めて知ったんだけど、「永禄の変」って歴史逸話的には有名な事件なのかな。あんまり日本史の逸話に詳しくない…。教科書には載ってたっけかな―。「刀剣乱舞」の今までの舞台やアニメなどでは出てきたことはあってもメインにはなっていなかったような。

主役の三日月宗近の演者尾上松也さんは二人いる演出家の一人で、この作品を企画した人物。「『刀剣乱舞』を歌舞伎でやる」のではなく、「歌舞伎に『刀剣乱舞』を持ってくる」というスタンスだとのこと。なるほど。「古典と呼ばれている演目も、最初は新作」だった、「この『刀剣乱舞』が何百年後かに古典歌舞伎として愛される作品になるように」ってすごい。

筋書に載ってる演出家対談によると、足利義輝が「その存在と最期が歌舞伎的」と感じて物語として成立させようとしたのがまず最初だったとか。「刀」に絡む人物として、義輝が浮かんだのだろうな。義輝を題材にすることで三日月を主人公とすることも決まったとのこと。三日月は足利将軍家の持ち物だったことがあるらしいので、三日月を主人公にしてストーリーを作るなら納得の選択だと思ってたけど、逆だったのか。まあ「新ジャンルで「刀剣乱舞」を扱うならやはり(主役は)三日月宗近だろう」となったというので、題材を選ぶとき三日月の縁を全く考えなかったわけではないと思うが。

足利義輝を三日月の「初めての主」設定にしていて、三日月も義輝にかなり思い入れしている。三日月は原作ゲームでは飄々として内心をうかがわせない人柄で、今までの派生作品でもそんな感じが多いけど、審神者にやや思い入れしていた映画継承の三日月よりもさらに今回は「悩める三日月」だったような。
そして義輝を最後に直接手にかけるのは三日月本人。派生作品で元の主に刀剣男士が自ら引導渡すのは珍しい方かな。命を落とすのを見守っているパターンの方が多い気がする。
時ならぬ時にやられるのを防ぐのはむしろ嬉しいかもしけないけど、歴史が正しくあるために死ぬのを見ているしかない、さらには直接殺さなくてはならない、というのは辛いよね…という展開。

鎧はないものの三日月の衣装は原作寄り。ただ後ろ髪は長くしてある。途中、裃みたいなオリジナル衣装もあり。

あと三日月には義輝の妹の紅梅姫に思いを寄せられるという、恋愛の色も入れられている。華やかな赤い衣装で恋に燃えるお姫様を表すのは「赤姫」という歌舞伎の設定の一つとのこと。義輝に妹がいるというのは創作かと思うが。

小狐丸は、三日月と同じ三条宗近の打った兄弟刀と言える刀だし、「小鍛冶」で能や歌舞伎の題材にもなっているから一般の歌舞伎ファンの人にもなじみやすいとして選ばれたかな。
鬘にちゃんと狐の耳毛?がある。羽織の片袖は原作通り外してあるけど、胸はあまり出ない衣装に。

小狐丸の演者さんは二役で足利義輝役もやっているのだが、こういう一人二役は最近のスーパー歌舞伎などではよくあることのようだ。別に人手が足りないわけではないのだな。同田貫と髭切の演者さんも二役やっていて、前半の終わりで刀剣男士が集合したとき、三日月が小狐丸らに「そう言えばお前たち最近姿を見せないがどうした」みたいなメタな台詞を吐いて、「私たちも裏で密かに活動しているのですよ」みたいなことを返して笑わせてくれていた。そりゃ足利義輝が出てる場面で小狐丸は出られないよねー。

刀剣男士としてはずっと出ている三日月に比べて小狐丸はやや印象薄めになるが、準主役の足利義輝もやってるのだから大変。三日月との殺陣もあり。義輝は武勇にすぐれた人と言われているけど、神苑で殺生し女性を連れての酒宴をするなど粗暴な振る舞いをする人として描かれる。この物語では悪い者たちに操られたせいとなっているが、一般にあまりいい将軍と認められていなかったのだろうな。完全に「悪役」ではないけれど。

同田貫正国は一般には「子連れ狼」の人の刀として有名なのかな。歌舞伎座で演じられた舞台もあったようだが、歌舞伎そのものではなかったか。とはいえ時代劇に馴染みのある従来の歌舞伎ファンにもよく知られた刀として選ばれたか。

同田貫の演者さんは刀剣男士役の人の中では二番目に若い20代で、実際にゲームもやってみてくれているとのこと。一振りだけ時代が違うことも含めて、同田貫という刀のことをよく知って演じてくれているのが嬉しい(なんか偉そうですみません)。

二役で松永弾正の息子の久直も演じていて、小狐丸の足利義輝ほどではないとはいえ、これもなかなかに重要な役なので演じ分け大変だよね。
某「聖闘士星矢」の派生作品で知った、自らの死を前提とした覚悟の行動のための「陰腹を切る」、人形浄瑠璃や歌舞伎で行われる演技方法だったらしい。
実際に義輝暗殺に関与した弾正の息子とは名前が違うので、この作品でのオリジナルな人物なのかな。

髭切と膝丸は今回もセットで。この二振りも歌舞伎でも扱われている曽我兄弟の話の中に出てくるので馴染みやすいものか。「鬼切」「蜘蛛切」といった「化け物斬り」としても知られているようで、この作品でもその役割。殺陣のシーンで着物に同じ柄の模様を出すのも「対」を意識している。

二人とも和装になっているが、髭切はちゃんと白い羽織を紐で留めて袖を通さない、など原作に寄せている。膝丸の袴もズボンをイメージして細くしたとのこと。髪形も三日月と同じく長髪になっているが、歌舞伎では前髪を作ったり目を隠したりはしないそうなので、膝丸のメカクレ&髪透けはなし。

ゲームの中での兄者が弟の名前を忘れるのも(それを膝丸が嘆くまでがセット)使ってくれて、原作ファンはニヤリとするところ。髭切がほんわりしているところも再現されてるけど、原作より可愛い。
髭切の演者の人は膝丸の人より小柄だけど実年齢は上。刀ミュ・映画黎明と来て初めての年上の兄者だ!

髭切の演者の人も二役で、義輝の妹の紅梅姫の役もやってる。小柄で可愛い感じなので女方もよくやる人なのかな。一般家庭から歌舞伎界入りした人だとか。

膝丸の演者の人は刀剣男士の役者さんの中では一番若く、この方もゲームを始めてみて結構ハマっているとのこと。嬉しいです。凛々しい感じの格好いい膝丸。

小烏丸も歌舞伎の演目で出てくることがあるらしい。初めての歌舞伎作品だから、刀剣は歌舞伎世界に馴染みのあるもので揃えたのだな。色のバランスで「赤」が欲しいからか?なんて思っていてすみません。

演者の人は刀剣男士の役の人の中では最年長で、「刀剣の父」を自負する小烏丸に重鎮感を出させる狙いか。劇団新派の俳優として歌舞伎以外の活動もしているとのこと。
「父」ではあるけど、刀剣男士の中で唯一女方の側面があるキャラクターと解釈されていて、そうだよねーあの見かけだもんねー。
最後に異界のものを調伏?するのだけど、そこは本来は石切丸の役どころだったか。

松永弾正の奥方や石清水八幡宮の宮司の人もなかなか名のある人を持ってこられたようだが、いちばんの「悪役」となる松永弾正久秀の演者の人は人間国宝の人だ。今までの2.5次元舞台や映画での「人間役」の人も、刀剣男士をやる若手の俳優さんたちより格上の人を配していたけれど、おおいいのか…とか思ってしまった。

松永弾正久秀自体は歴史上も有名な人物で、他の歌舞伎作品にも「悪役」として出てくるそう。演者の人は今回は必ずしも「悪役」ではないという設定をおもしろく思ってくれたとのこと。
私はそもそも松永久秀って織田信長を何度も裏切る狸親父で、最期は信長に名器の茶釜を譲るのを断ってその中に爆薬を入れて爆死した、という逸話ぐらいしか知らなかったが、「永禄の変」の首謀者とされている人だったのか。もっとも最近の研究では久秀は直接関与していなかっただろうとされているらしいが。

他の登場人物として、時間遡行軍とは別に異界の翁・媼というオリジナル設定の「敵」が出てきて、彼らが義輝をたぶらかしたり遡行軍と協力して弾正を殺して歴史改変を企んだりする。何とは明言されないが、そういう悪しき「妖」がいるんだよ、ということで、今回の真の「悪役」は彼らである。

異界の翁は信長や久秀のもとに現れたという幻術師「果心居士」として義輝に取り入る。果心居士は実在したかはあやしいし、義輝のもとにいたという記録はなさそうだが、同時代の「妖しい奴」として使われたのだろうな。義輝に呪いをかけて病にし、それを癒して信頼を得るという、まあラスプーチンみたいなもん。

時間遡行軍にはたくさんの演者さんたち(そういう端役の人たちを「仕出し」というらしい)がいるのだけど、打刀以上の人間の形をしているのはもちろんのこと、短刀・脇差もゲームでの姿を再現していて驚いた。アニメ以外では初めてじゃないか? 短刀はあの姿を黒子の人が棒二本で操っていたし、脇差もあのカイムと合体したシレーヌみたいな感じの骨の胴体部分を作っていた。
出現シーンでは舞台上や花道のほか、花道以外の通路や二階席・三階席のところにも来てくれていて、場を盛り上げてくれていた。

この遡行軍の人たちは松永の軍勢の兵士の役もやっていて、殺陣でやられたときの表現として、舞台の上の階段状の場所から派手に転がり落ちたり、その狭い場所で宙返りを決めたりしていた。アクションシーンを盛り上げる演出なのだろうけど、身体能力が高くてすごい。
カーテンコール時は遡行軍の姿で出てきて、花道にずらっと並んでいっせいに宙返りを決めたりしていた。
この名もなき役の人たちがとても良かったです。

音楽も印象的。
クライマックスの義輝の戦闘シーンでは普通に殺陣もあるけど、しばらく舞台は薄幕を下ろした状態で、戦闘を激しくかき鳴らす琵琶の演奏で表現する、という演出があった。迫力ありました。歌舞伎では女性は役者になれないけど、今回のこの琵琶の奏者は女性の人(二人)だった。
この琵琶だけでなく、長唄・三味線・箏などがバックの音楽やナレーション的な語りとして折々入る構成。舞台の上に並んでの演奏のほか、舞台斜め上方のブースでの演奏もある。
あと、刀剣男士の近侍曲もアレンジして使われていたとのこと。私は近侍曲ちゃんと把握してなくて自信がなかったんだけど、あれ?この曲なんか聞き覚えがあるような…と思った。嬉しいよね。

刀剣男士たちの踊りもある。
これも歌舞伎ならではか。

この「歌舞伎本丸」の審神者は姿を現さず、台詞の投影と声のみだったが、どこかで聞いた声だなーと思っていたら映画やドラマなどにもよく出ている中村獅童さんだった。

カーテンコールでは撮影可だったけど、全然いい写真は撮れませんでした。花道に来た小狐丸の人は撮影のためのポーズをとってくれたり、膝丸の人は「SNSで拡散お願いします」のボード持ってたり。

全然まとまりがないけど、おもしろかったです。
是非再演や、円盤発売、よろしくお願いします!

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